刑事フォイルとは     
MJ07
一人一人の人間が戦火の中、人間として
また軍人としていかに敵と対峙し
どう闘い、どう生き抜くべきかを問う
人間ドラマである。

 時代背景の反ユダヤ、反ドイツ、
反戦、反政府が時の戦況により増幅していくと
その分人間ドラマも大きく膨張露呈し
戦争の悲劇と真実とが
 浮かび上がってきます。

フォイルは正義と信念で道を拓こうとしたが
上官との軋轢や懐柔もあり辛酸をなめた。
時には国策の前には
如何ともし難く挫折を強いられることも
あったようだ。

それでもなおフォイルは困難が迫る中
初心の正義と信念を忘れることなく
周りの協力を得て正攻法で正面突破を図った。

終局に於いては
何人であろうと法に正しい者には
身を挺して手を差し延べることを常とした。
 
 
 
 
 
 a1-壊れた心
 
フォイルはチェス仲間の
ポーランド系ユダヤ人医師ノバァクと
時間をみてはチェスに興じることもあった。
ノバァクはフォイルのチェスの師匠であり
よく馬が合った。
ある時二人はチェスに興じていた時
ノバァクはおもむろに自分の家庭について自ら
フォイルに語りかけた。
「妻は音楽家でピアニストだった。
ショパンが好きでね。
しかし妻を思い出すから今では聴けなくなった。
娘が一人おり名はマリアンカといった。
あと数日で14歳になる。

自宅はポーランドのルブリンにあり
ドイツがポーランドへ侵攻して来たとき
私は仕事でパリへ行っていた。
帰国できなかったことで私の命が長らえたことを
喜ばしいことと思えるかね。
ノバァクは苦しい胸の内を吐露し続けた。
家族はユダヤ人隔離居住区へ送られたが
そのごは行方が分からない。

ノバァクは気が沈むとやや悲観的に
「行方がわかる日は来ないだろう」と答えると
フォイルはすかさず
「常に希望はあります」と答える。
フォイルは一人の人間としてノバァクの家庭に
深い理解を示した。

ある日ノァバクが務める診療所で一人の男が
殺された。
ノバァクも容疑者の一人に挙げられたが、
フォイルは「先生には殺せない」と否定する。
するとノバァクは「友情に負けて職務の遂行を
疎かにするのか」と逆に叱咤激励される。


そのごノバァクは勤務先でマイダネクの惨状を
伝えるニュースを耳にすると
自分の家族はみんな亡くなってしまったと
大きな絶望感に包まれ失意の中を急いで
わが家へ帰って行く。

ノバァクはバスルームに流れる妻の大好きな
ショパンの旋律を薄れゆく記憶の中で静かに
聞きながら手首を切り湯ぶねに身を落としていった。


時を同じくしてフォイルとミルナーはサムの
言葉から只ならぬものを感じノバァクの家へ
急行する。
ほんとに危機一髪のところであった。

後日ノバァクは友人からマイダネクの生存者の中に
娘のマリアンカがいることを知った。
ノバァクも娘の生存を知り
生きる気力と明日への望みが湧いてきたようだ。


気も晴れたノバァクは久しぶりに
映画館へ行きました。
この日フォイルは劇場前に並んでいるノバクの
姿をたまたま見かけました。
上映作品はノバァクが好きなビング・
クロスビーでした。
しかしフイルムの輸送の手違いからコメディーと
ニュースが上映された。

ニュースはノバクにとって忌々しいマイダネクの
悲惨で凄惨な現場が映し出され、
見るも耐え難く途中で映画館を飛び出すや
暗闇の中を我を忘れて歩き続けた。
その時突然黒影の男にぶっつかってしまった。

ノバァクの耳には彼にとって悍ましい
ドイツ語が耳奥深く入ってきた。
「そこをどけ」とドイツ語で。

ノバァクは何の罪もない妻がナチスよって
殺され積年の恨みつらみが一瞬にして爆発し
理性は完全に失われていた。

影のドイツ人は何の面識もない男で
ドイツ語を発したゆえに悲惨な最後を遂げた。

ノバァクは言う。
「見下ろされていたのかも知れないし、
虐げられるのもユダヤ人の定めなのかも。」 
 
 
 
 
 

<あとがき>
フォイルシリーズでは
脚本家がそうであるようにストーリーに
よっては
ユダヤ人を中軸として、あるいは後ろ盾と
して登場させています。
それ故キャストの情報量が増し緊張感に
溢れたミステリアスな複雑な展開を見せます。

「シリーズ5・第2話」の「壊れた心」では
加害者、被害者共に
それぞれの国の一国民として責務を負い
戦火の中を生き抜いてきたが
戦争という名の無差別行為が関係のない
二人までをも引き裂いてしまった。

加害者・被害者ともに戦争の被害者であり
罪のない相手を未確認のまま
傷つけてしまった。
今まで見たこともないような一段階も
二段階も深く抉った作品となっています。

一般にユダヤ人が登場する作品では
被害者側の立場で表現される場合が
多いようですが
今回はあろうことか加害者側として
登場しています。

事件はノバクが素直にドイツ人を殺めた
ことで終幕を迎えたが
フォイルは彼の人生のどこかに
理解できるところがあったようだ。

ノバァクはフォイルの友人で良き
チェス仲間であったが
フォイルは事件の決着に際しては
終局まで刑事としての職務を全うした。

 
 
 
 
 
a2-軍 事 演 習 
 
 
エンパイア&ヨーロピアン食品会社では
ある日秘密の役員会が開かれた。
この日は社長の息子サイモン・ウォーカーが
ナチスとの契約書をスイスから持ち帰り
「わが社はヨーロッパ最大の油脂加工会社に
なれる」と豪語した。

会議のあと秘書のブラウンは人目を忍んで
外部に電話をしているところを発見され
ビルから突き落とされた。

彼女はアグネス・ブラウンと言い秘書であったが
裏ではスパイ行為をしていたようだ。
ブラウンのバックにいるのが
弁護士のベックであった。
彼はドイツの亡命者でありフォイルの旧友でも
あったが裏の顔はスパイでもあった。

エンパイア&ヨーロピアン食品会社は
ナチスの軍部と裏取引をして
法外な利益を上げているようであった。


弁護士のスティーブン・ベックは保安局の
ピアースより「早くドイツに戻って
エンパイア&ヨーロピアン食品会社の
情報を探るよう」ミッションを受けていた。


しかし彼はドイツに発つ前ウォーカー邸に
あるはずの契約書を奪い取ることを考えていた。
そこで彼は
金庫破りの名人ハリー・マ-カムに会うため
ハリーの農家にやって来た。
ハリーに向かって「君に話があるんだが」と。
すかさず「そんなこと出来ません」とハリー。
「2か月前に出所できたのは俺のお陰だろ」と
ベックは迫る。

ベックは金庫破りの名人ハリー・マーカムに
スイスから持ち帰ったナチとの契約書を
盗み取るよう強要する。

ハリーは以前盗みの件でベックから
格別の弁護を受け減刑を勝ち取り
それ以来ベックには頭が上がらなかった。

その夜レジナルド・ウォーカー邸に
ハリーが盗みに入り金庫を開けた。
だが家人に気付かれ小箱と何かを掴むと
慌てて逃げ出した。
逃げる途中息子のサイモンに散弾銃で撃たれ
背中を負傷した。

家に帰り妹のルーシーから傷の手当を受けながら
兄のマーカムに尋ねる。
「泥棒に入ったの」
「あれがあればこんな暮らしはやめられる」
マーカムはレジナルド・ウォーカー家の
小作人でもあり生活は良くなかった。
「何を見つけたの」
「それは言えない」
「どこにあるの」
「働きもので信用できるヤツだ」と答える。

翌日ウォーカー邸の敷地内で銃声があったと
通報を受けたフォイルはウォーカー邸へ向かい
事情を尋ねる。
社長のレジナルド・ウォーカーは
被害が何もなかったので警察には
報告しなかった答えた。

実際には純金製の小箱とナチスとの契約書が
盗まれていたが
ウォーカー親子は頑なに秘密を通した。
とても口外できる話ではなかった。

数日後、マーカムはベックに会う。
ベックが「手に入れたか」と聞くと
「しくじりました」と答える。
「どうしてだ」
「忍び込んだが家人に見つかり逃げて来た。
金庫を開けることなど何もできなかった。」
「嘘を言うな」
「嘘ではありません」
「あとでもう一度聞からよく考えとけ」と。
「おまえは本当の俺を良く知らないんだ」
と脅しを掛ける。

フォイルとは昔からの友達で
釣り仲間でもあったが
フォイルがベックの裏の顔を知らなかったとは。

またベックはスパイとしてピアースとも
繋がりがあり
ピアースの命を受けて任務を果たしていた。


教会でベッグがピアノを引いていると
ピアースが背後から近寄り
イギリスから早くでるよう催促する。

荷造りをしているベッグのところに
フォイルが現れる。
フォイルがエンパイア&ヨーロピアンの件を
切り出すと観念したのか過去を語り出す。

「私は35年前にドイツを出国しイギリスへ渡った。
私がナチを批判していたから。
そのままドイツに残れば捕まっていただろう。
それ以来ナチスと密接な関係にある
E&E食品会社の社長
レジナルド・ウォーカーの情報を集めている」


イギリスにあってはドイツとの取引は
利敵行為と見なされた。
ベッグがマーカムに強要したナチスとの
契約書が見つかればE&E会社を
追い詰めることができるからである。

だがスティーブン・ベックと関わった
ハリー・マーカムもアグネス・ブラウンも
事件に深入りしすぎてサイモン・ウォーカーに
殺されてしまった。


フォイルは出国するベッグを拘束しようとするが
彼は保安局のピアースの支配下にあり、
時の戦時下では手を出せる身ではなかった。

契約書はその後フォイルの手に渡るが確定的
証拠品とは認められなかった。
ピア-スはフォイルにもっと確かな証拠品を
見つけるよう強く言い含める。

フォイルはハリー・マーカムの家を訪ね、
妹のルーシーに会う。
ルーシーは兄から「働きもので信用できる友に
預けた」と言っていたと答える。
この時フォイルは教会でサムが言ってた言葉を
思い出した。
当時児童は社会奉仕としてゴミ収集等を
手伝っていた。
サムは児童に向かって
「あなたたちは蜂のようによく働いたわね」と。

フォイルは農場の一画にある
養蜂箱を開けてみると
思った通り中からは純金製の小箱が見つかった。
すべての証拠が揃い捜査は終局へと向かった。
フォイルはミルナーとルーシーを連れ
ウォーカー邸へ急ぐ。

まずルーシーが小箱を持って現れると
何も知らないウォーカー親子は喜び合ったが、
次にフォイルが予告もなく
入って行くと驚き怒る。

証拠品の純金製の小箱はフランクフルトの
ユダヤ人の職人が作ったもので
つい最近まで超正統派のドイツ系ユダヤ人
ローテンベルグが祈祷書を入れるために
使っていたそうである。
ナチスによって1家4人は殺され金の小箱は
略奪された。


フォイルはサイモンを詰問すると「ドイツの
貿易局から貰ったものだ」とうそぶいた。
しかし税関で申告しておらず密輸品であった。

 
 
 



<追い詰める>

フォイルは続く
「それでもあなたは何とも思わないのか」と。
サイモンを逮捕連行する。
あとに残った社長のレジナルドへ向かって
「妻は出て行くし、もうあなたの家庭も会社も
終わりだよ」と。


フォイルは逮捕するではなく部屋を出た。
逮捕しなかったことが
容疑者の惨禍を増幅させた。
常々見せない別人のような冷徹無比なフォイル。
フォイルは事件がすべて終わったことで静かに
車へと向かう。
ややうつむき加減で首を少し振って何かを
考えているふうであった。

そのとき、遠くでピストルの音がした。
ミルナーを初めとしてまわりの警察官が一瞬
足を止め音の方へ一斉に振り向いた。

だがフォイルは
全てを予知していたかのように足も止めず
振り向きもせず静かに車へ乗り込んだ。

 
 
 
 
 
 a3-臆 病 者
 
 
 
  ある日イーディス・ジョンストンという
若い娘が電線を切断し身柄を拘束された。
軍施設の電話線を切ったことは、
破壊工作にあたり処刑されかねない
重罪であった。
フォイルは「君は独軍の味方かな」と尋ねる。
すると彼女は「あと数日でドイツ軍が
やって来てイギリスもやられてしまう」と返す。

彼女は自分のやったことを
まったく何ひとつ分かっていない様子であった。

調べを進めると彼女の叔母がユダヤ人で、
それが原因である組織から脅され犯行に
及んだようだ。
フォイルは若くして社会に対して無知ではあるが
将来もありなんとか助けてやりたいと
内々に調査にあたる。

一方、ミルナーは
街角で見知らぬ男に声を掛けられ何の疑いもなく
誘われるままある集会に顔を出した。
リーダーはガイ・スペンサーといい
反ユダヤ主義を掲げたナチよりの政治団体で
「フライデークラブ」と呼ばれていた。
ミルナーを講演に招き、そのあと親切にも食事
にも誘ったりした。

フォイルは早速イーデスの勤め先のホテルを
訪ねるが、オーナーのマーガレットとアーサー
夫妻は何も知らないと答える。
妻のマーガレットは反ユダヤ主義者であり、
フライデークラブのリーダーであるスペンサー
の熱狂的な協力者であった。

ホテル・ホワイトフェザーでは
フライデークラブの会合が開かれ様としていた。
折しもロバート・ウールトンという男性が
ホテルへ入った。
フロントで身元を尋ねられるが彼は口を濁した。
彼はユダヤ人であった。

彼は甥っ子のイツァークがフライデークラブを
非難したことでスペンサーの一味から
暴行をうけ大怪我を負った。

ウールトンは甥っ子の仕返しをする為
ピストルを隠し持ちスペンサーを殺す機会を
窺っていた。

一方、妻のマーガレットはホテルの所有者であり
夫のアーサーは頭が上がらず
いつも肩身の狭い思いをしていた。
その上彼女は人種差別主義者であった。
日常夫を使用人の如く見下し
夫には積年の恨みつらみがあった。

夫アーサーは夜の会合を利用して
妻のマーガレットを殺そうと計画していた。

スペンサーが到着し夜に会合が始まった。
一瞬ヒューズが切れて部屋が真っ暗になり、
突然銃声が響いた。
部屋が明るくなるとマーガレットが倒れていた。

フォイルはホテル・ホワイトフェザーで
捜査を開始し全員から事情徴収した。
スペンサーは狙われたのは自分だと言います。

容疑者としてピストルを持ち込んだウールトンが
怪しまれたが、彼はホテルでピストルを奪われ
計画が失敗に終わったことが分った。

聞き取りが終わり
フォイルが部屋を出ようとすると背後から
いきなり「君はユダヤ系かな」とスペンサーから
声をかけられる。
この時フォイルは苦虫を噛んだような面持ちで
やや目線を下に何か言いたそうであったが、
揺れるフォイルの心の内はどんなものであった
のだろうか。
●何という失礼な男だ。           
●こんな男と喧嘩しても始まらない。    
ここは我慢だ。            
●いづれ証拠を見つけて逮捕しないといけない。
妻殺しの犯人は夫のアーサーであった。
すべては夫の短絡的犯行であった。

フォイルは帰りがけに陸軍情報部の者から
声を掛けられ「5日前に盗まれたある書簡を
探し出してほしい」と依頼される。
イギリスがドイツとの和平交渉を望んでいる
というもので、ドイツの手に渡ると
イギリス国民の士気が低下し問題となる。
おそらく外務省からスペンサーに届けられ
ドイツに渡される算段であったが、
書簡が出てこなければ逮捕も出来ず、
何とか取り戻してほしいとフォイルに願い出る。


フォイルはホワイトフェザーを捜索したが
書簡は発見できなかった。

やがて解放されたスペンサーが署へやって来た。
あとから帰ってきたフォイルとミューラーが
部屋へ入っていくとスペンサーが待ち受け
苦情を並べ立てる。
余程腹の虫が収まらないのかフォイルの
過去や息子のことまで持ち出して、
嫌みと脅しを入れる。

スペンサーは言うだけ言うと
部屋を出て行きかけるが
「あの貸した本を読んだら返してくれ」と
ミルナーに言い残し出ていく。
この本はスペンサーが初めてミルナーに会った時
読んでみるよう勧めたものであった。

残されたフォイルは割りきれぬ面持ちで
しばし立ちすくんだ。
いかにフォイルのショックが大きかったことか。
今まで自分が成し得てきたことが、
一瞬にして膝元から崩れ去って行くような
喪失感に包まれた。

一方イーディスは悪いことだとは分かっていたが
そんなに大それた事だとは思っていなかったと
泣きながら切切と訴える。
本人も反省したことだしフォイルも納得出来た
ようで、
証拠不十分と彼女を釈放する。

 終局に向かったフォイルは
ミルナーを呼んでミルナーがスペンサーから
借りていた本を持ち出して本を開き
裏表紙に隠されていた書簡を取り出して見せる。

ミルナーはその時自分がスペンサーに
嵌められ利用されていたことを悟った。

 
 
 
 
 
 SS7







<思えば>
フォイルは事件が終わったことで
ミルナーを呼び
互いに意思の疎通や配慮が足りなかった
点を確認し信頼を深めた。

しかしフォイルが最も言いたかった
ことは、ミルナーがフォイルの前で
スペンサーに頭を下げことでは
なかったか。

しかしこのことは部下に直接
言う言葉ではなく
将来ミルナーが職務を積み
自ら理解認識できればいいことであった。

顧みれば
ミルナー自身も戦争で片足を失い
病み上がりの状態で職場に復帰し
刑事としての頭脳はまだ全快でなかった
ようだ。
その病み上がりの人間を連れて来たのは
あなたですから。
(フォイルさん、もう少し優しくして下さい)

 
 
 
 
 
a4-ドイツの女 
 
 
 舞台はイギリスの片田舎ヘイスティングス。
時は1940年5月。
海辺の草原で幸せそうにくつろぐ二人。
大戦中とは思えぬ静まり返った海と空と大地。
夜には夫が奏でるピアノの音色が静かに流れ、
無限の幸せが二人を包み込む。

その夜突然ドアを叩く激しい音。
二人はスパイ容疑で連行された。
当時英国では「敵性外国人」は沿岸部から
8マイル以内に居住する者をすべて隔離収容した。
また写真撮影なども軍事情報として
厳しく取り締まった。
夫のトーマス・クレイマーはドイツからの
亡命者であり海辺で戦艦をバックに写真を
撮ったことや妻エルシーが洗濯物を干したことは
ドイツ艦船への合図だと容疑をかけられ
逮捕された。

夫のクレイマーは音楽家であったが
オーケストラ内でのユダヤ人に対する言われのない
迫害に反対したため英国へ渡った。
しかし辛うじてイギリスへ渡ったものの
ここでも言われなき差別を受けることになった。
ナチスから逃れてきても「敵性外国人」で
ないことを当局に証明することは
容易なことではなかった。
収容所では別々に隔離され妻は途中で倒れ
心臓病で亡くなった。

ある日マーク・アンドリューという若者が
叔父のトーマスを助けてやりたいと地元の有力者
ヘンリー・ボーモントのところへやって来た。

マークはボーモントに面会し
叔父を助けてくれるよう嘆願するが
にべもなく断られる。
ボーモントの妻グレタはドイツ人で
あるにもかかわず何故か収容されることはなかった。

ボーモントは大富豪の家柄で貴族の出であった。
しかもボーモントはヘイスティングスの
治安判事を務めており
その地位には確固たるものがあった。

以前この家の使用人であった
マーク・アンドリューは
ボーモントの妻がドイツ出身であることも
良く知っていた。

マークが怒っているのはグレタが敵性外国人を
すり抜け隔離収容されずに
乗馬の練習をしたり自由に暮らしている姿に
承服できないものがあった。

一方フォイルは上官に転属願を出していたが
人材不足でやり繰りが付かず却下される。
代わりに運転手を付けてもらう。
運転手の名前はスチュアートで以前輸送部隊に
いたのを引き抜いてもらっている。
スチュアートは女性で最初に顔を合わせた時に
フォイルは驚きと内心落胆であった。

ある日ドイツの戦闘機がヘイスティングスへ飛来し
爆弾が投下されバーで働いていた
トレイシ-という若い娘が亡くなった。
娘を亡くした父親のエリック・スティーブンスは
ドイツ兵に憎悪を抱いた。

街中では彼に呼応しグレタへの風当たりが
強くなってきた。
町に出て買い物姿を見かけると人々はグレタを
振り返り白い目で見るようになった。
グレタは家庭内でも義理の娘サラ・ボーモント
からも嫌われていた。

妻グレダは乗馬が好きで日課としていた。
ある日練習中にピアノ線に引っ掛かり
落馬死した。
落馬した脇の大木には鍵十字が彫られていた。

フォイルは早速捜査を開始する。
グレタは2年前に結婚しヘンリー・ボーモントと
イギリスで暮らすようになった。
その後戦況が悪化していったがグレタの
「敵性分類」は「C」のままであった。

フォイルはグレタの死に疑問を持ち主治医の
グローブスに会い解剖して生前の健康状態を
調べる必要があると伝えた。

解剖してみたが「彼女には病気などは見つから
なかった」と伝える。
日頃は乗馬やドライブを楽しんでおり
健康上の理由で収容を免れるなど考えられないことであった。
つまり「診断書が間違っている」と。

フォイルは間違っていた診断書には何か大きな
裏があると読んでいた。
更に医師を問い詰めると医師には守秘義務が
あると頑なに拒んだ。
ボーモントは医師を買収して
妻を愛するばかりに偽の診断書を書かせていた。


そこには「敵性外国人」の審査委員会の杜撰な
審査管理が行われていたようだ。
捜査が大詰めに迫った頃、
フォイルはサマーズ警視監から呼ばれ移動先が
決まったので明日出頭するよう厳命される。

だがフォイルは未だ未解決の事件も
残っていると断り今回の捜査結果を報告する。

ボーモントの妻グレタをこの国の権力者が
庇っていて収容を見逃した可能性があると
フォイルは報告した。
被害者はいたって健康体で医師の診断書には
誤りがあります。
夫は収容所への留置をさけるため、
医師に大金を払い偽の診断書を書かせていたと。

本来ならば直ちに抑留されるされべきです。
それを見逃したのは警視監が委員長の
審査委員会です。
すると警視監が「話し合おう」と
フォイルに持ち掛けた。
 
 

 






<敵性外国人>




第2次大戦が始まるとナチスの迫害を逃れて
多くのユダヤ人が英国へ押し寄せた。
ドイツから亡命したクライマー夫妻は
ある時イギリス海軍の駆逐艦を撮影したことで
スパイ容疑を掛けられ逮捕、収容された。

クライマー夫人は祖国を追われ
命からがらイギリスへ辿り着いたと思ったら
収容所へ送られ入れ不運にも
途中で倒れ亡くなってしまった。

夫妻はイギリスにあっては戦争状態にある
ドイツ出身の政治亡命者であり敵性外国人と
みなされた。
クライマーは交響楽団のメンバーであったが
同僚のユダヤ人迫害に反対したため、
当局に追われる身となり英国へ亡命した。

他方ヘイスティングスでは大富豪で
治安判事のボーモント夫妻が暮らしていた。
その中にあってボーモント夫人のように
隔離されされずに権力に守まれて自由に暮らす
特権階級の者もいた。

しかしながら
戦時下にあって正当で合法的な亡命者と
確信が持てた場合
フォイルは揺るぎない決意で
上司に和解を迫り
身を挺して絶望の淵から救出することもあった。

 
 
 
 
 
  【付 記】
 



〔1〕『サムの弁舌と着眼点』




サムは軽い気持ちと滑らかな弁舌で
捜査情報を引き出す能力に長けていた。
また何をどうすれば
フォイルが喜ぶかもよく掴んでいた。

ヘイスティングス署に入った初日
早速フォイルと車で捜査へ向かう。
運転しているサムが突然フォイルに向かって
「面白い事件ですか。スパイとか殺人とか」
と。

フォイルびっくり仰天。
世の中広しと言えど新人女性の警察署員が
言える言葉ではなかった。

しかし
その言葉の裏にはサムの潜在捜査能力、
着眼点が
既に出来上がっているようだった。

加えて素質の下地に見え隠れするのは
サムの厚かましさ、遠慮のなさ、好奇心、
とぼけ役、人の残り物まで頂くなどの
マイナス要因が
彼女の場合は
すべてプラスとなって現れ
円滑な人間関係を構築している点である。



 
 
 
 
 

〔2〕『フォイルの慈善活動』
証拠物件として押収した七面鳥を巡って
サムは早い処分をフォイルに求めるが
色よい返事がない。
もうすぐクリスマスなのでそれまでには
決着して
少しはお裾分けをと願っている。
一方フォイルは密かに判事と善後策を
講じていた。
フォイルは早速サムを読んで
サム「じゃあ、食べていいんですね」
フォイル「そうは言わなかった」
「特例として実物ではなく写真でも証拠として
認めてくれる」と判事は言ってくれた。
そこでフォイルは「疎開している子供たちに
送ろう」と提案。

「君も食べに行かないかとお誘いを受けたよ」
「喜んで行きます」とサム。
このような場合フォイルは仲間だけではなく
周りにも深い配慮を示した。



またフォイルはサッカーくじで100ポンドを
当てた時、みんなの食事代として5ポンドを
取っておき
他は「ユダヤ人難民支援基金」に寄付したら
どうかと提案した。
サムは一瞬気落ちしたが、すぐに笑顔を取り戻した。
フォイルのささやかなスペシャルサービスで
あった。


 
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