b1-疑惑の地図
 
ビバリーロッジのある空軍の施設では
ドイツ本土爆撃用の地図を作製していた。
そこでは敬虔なクリスチャンである
ヘンリー・ スコットという青年が
働いていた。
彼は自分の仕事が善良な市民にまで
危害を及ぼしているのではないかと危惧し
精神的な 悩みをケプラー神父に相談していた。
ケプラー神父は戦前ドイツを逃れイギリスへ
亡命していた。

ある日ヘンリーは事務所の机にあった
航空写真を見て愕然とします。
その写真にはホッホフェルトハウゼンという
町が写っており、
突然彼は写真を持ったまま「そこにはない」と
叫びながら慌てて事務所から飛び出した。
友人ジェーンが遠巻きに声を立てる。
ジェーン「何がそこに無いの(●●●●●●●●)
どこへ行くの(●●●●●●)
ヘンリーは叫んだ。「教会だ」と。
そのあと森の中で変わり果てた姿で
発見された。

ミルナーが調べていくと
ヘンリーのポケットには
ホッホフェルトハウゼン の写真が残っていた。
ミルナーがケプラーに尋ねると
ホッホフェルトハウゼンなどというところは
知らないし、イギリスに来る前は
ミュンヘンの教会にいたと答えた。

一方、フォイルはヘンリーが相談相手として
ケプラー 牧師に頼っていることを知り
彼を訪ねる。
そのとき フォイルはケプラーが
何かを隠しているのではと疑った。

続いてホッホ・フェルトハウゼンという街を
知っているかと聞くと「自分は知らないと」
「以前はミュンヘンの聖ニコラス教会にいた」と
答えた。

フォイルはそのごビバリーロッジからの帰り
見知らぬ男から声を掛けられる。
彼は空軍情報部の人間でビバリーロッジから
ドイツに情報が漏れている疑いがあり
調査中だと言う。
ついてはフォイルに調査をお願いしたいと
ケプラーの供述書を手渡した。
見ると彼はホッホフェルトハウゼンに
5年間 いたことが解った。
それにはホッホフェルトハウゼンの
航空写真まで添えられていた。

フォイルはケプラーの容疑が固まったとして
教会を訪ねる。
静まり返った教会内でふたりは向き合う。
「あなたを逮捕しに来ました」
「ヘンリーとメレディス警視正の殺害、
ミルナー巡査部長の殺人未遂容疑」です。
「一体何の話です」
「ほかに言うことは」
「私が会ってもいない警視正を殺す理由が
ありますか」
すると即座に「ありません」とフォイル。

一瞬ケプラーの顔が変わった。
「狙ったのはミルナーだ。
誤ってメレディスを撃ってしまった」
「何故ミルナーを」
「ミルナーについた嘘がバレルのは
時間の問題だった」
更に情報部の供述書とミルナーの職問調書との
矛盾を追及する。
写真を取り出し「どこか知っていますか」
と問う。
「いいえ、知りません。」
「あなたが5年間いたところですよ」
「いいえ、違います」
「違いません」とフォイル。
「あなたの供述書にはそう書いています」
「空から見るのは初めてです」と
訳の分からぬことを言う。
「ヘンリーもあなたに裏切られていることに
気づいたのです」

「違います。ヘンリーは自殺です」
「ヘンリーは気づいた。
この写真はあなたが 5年間いた村です」

あなたはミルナーに
「ミュンヘンの教会にいた」と答えている。
「ただの誤解です」
「ホッホ・フェルトハウゼンで司祭になるのは
ほかのどこよりも難しい」
とフォイル。
「理由は」
「教会がないからです」

ヘンリーは写真を見て教会が
どこにもない ことを見破り
あたたの嘘に気が付いた。
「何故、ヘンリーは気づいたのか」
ヘンリーは事務所を飛び出したときに
ジェーンから問われ
ヘンリーは「教会がない」と答えている。

ドイツ時代にあなたがいた村には
教会がないという意味だったとフォイル。

「あなたは私の知っている聖職者とは
似ても似つかない。」
「あなたはドイツのスパイではないのか」 と
問えば
「自分は愛国者だ」と。

沈黙がしばらく続く。
「何もかも旨くいかなかった」
「ドイツの情報部に雇われ沿岸部の部隊の
情報を探っていた。
まさか爆撃用の地図を作る拠点が自分の
教区にあるとは」
「教会のない村を選んだのはうかつだった」
「神が見放したからだ。当然だろう」
「あなたは一体何者だ」
ケプラーは表の顔は聖職者として
繕っていたが
裏ではドイツのスパイとして軍事機密を
ドイツへ流していた。

「言っておくが私は悪人ではない。
任務を果たしただけだ」
「そうゆう詭弁に興味などない」と言うと
態度が豹変しスパイの顔に戻る。
「さあ来い」/「そうはいかん」
「ひとりで来たのか」
「いや、外には部下を待たせているが
中へはひとりで入った」と。
「だとしても、あなたは敵だ」
「自分には失うものなどない」と開き直る。
「罪を重ねるのはよせ」
「じゃあ、外で待つ」 と
フォイルは出口へ向かう。

そのとき銃口がフォイルの背中に追っていた。
重苦しい雰囲気が室内に漂う。
後ろで突然銃声が響き教会内に鈍く反響した。
すべては終わったと振り返る。

 
 
 
 
 
 b2-エヴリン・グリーン
 
 
 ある日エヴリン・グリーンという女性が
突然電話を受けたあとスーツケースと
小さな冊子を持って姿をくらませた。
彼女は外務省のロシア課に務めており
亡命者の ロシア人の世話や連絡係をしていた。

その夜、大けがをしたロシア人が病院に
血だらけのまま転がり込んできた。
医師のイアン・ロスは手当をしたが、
亡くなる前に「テンアイ」と言い続け
亡くなった。
男の名前はグリゴリー・パレンコと言った。
この時ドアの外から中を伺う男が佇んでいた。

新しくMI5に赴任したフォイルは警視監の
アレク・メイヤーソンから
隠家に匿っていた ロシア人が3名殺されたので
調査するよう命じられた。

一方サムの夫アダムは選挙区の老婦人から
娘が3日前から娘が戻らないので 探してほしいと
相談を受けた。
名前は何とエヴリン・グリーンと言った。
果たしてこのエヴリン・グリーンは冒頭に
失踪した
エヴリンと同一人物なのか。

フォイルは事情を聴くためイアン・ロス医師に
会いに行った。
イアンは遺体を見ながら切り傷と格闘した
痕跡が残っていると説明した。
フォイルがMI5へ戻ると外務省からロシア課に
務めていた
エヴリン・グリーンという女性が
2日間欠勤しているという報告が入った。
エヴリンは亡命者との連絡係で隠家のことも
知っていた。
フォイルはスーツケースを提げて
家出した というグリーン家を訪ね
夫のジョージに事情を尋ねたが
突然のことで まったく何も判らないと言う。
彼女には男がいるようだと告げた。

医師のロスからフォイルに電話があり
「遺体の引き取りは警察でなく軍関係者が
来た ようだ」と伝えた。
大した事ではないが「明日見せたいものがある
ので来てほしい」と言って電話を切った。

朝方フォイルが行ってみると
室内にロスの遺体が発見された。
右手にはタオルで巻いた拳銃が握られていた。
イアンと結婚予定だったケイリントンは
ユダヤ人の亡命者で医師でもあったが
イギリスには兄弟や親類もなく
一人暗く打ち沈んだ。
当局からは冷たくもドイツへ帰還するよう
通達を受けた。

情報局では上司のシャーロット・ブラウンから
極秘の ファイルをバレンタインへ持って
行くように言われたサムが部屋へ近づくと
中から「彼女は東ベルリンにいるのか。
そちらに渡した娘を直ぐに解放せよ」と
バレンタインの声が聞こえた。

サムはバレンタインの話し声を夫へ相談すると
フォイルに進言したほうが良いと言います。
フォイルは隠家のバートンホ-ルに向かうが
政府の管轄ゆえ立入禁止と追い返される。
その時門兵が「ティンアイへ知らせろ」という
声がした。

「テンアイ」とは「ティン・アイ」で
上官の名前であった。
MI5に勤務するサムは
ある日偶然にも夫から聞いていた
エヴリン・グリーンと同じ名前の
女性を機密ファイルから名前を覗き見した。
フォイルはイアン・ロスの病院に行って
事情聴衆をしてみたが
イアンは亡くなる前にバートン・ホールの
近くで起きた交通事故で呼び出しを
受けていたと看護婦から話を聞いた。
再度フォイルはバートンホ-ルを訪ね
内部を見て回るが
見たのは建物の一部だけで他の部屋は
固く閉ざされ
近寄ることも出来なかった。
バートンホールは表向きはソ連の
無線通信を傍受し解読する施設であった。

フォイルはアダムの選挙区のミセス・グリーン
の家を訪ねる。
写真を見せてもらうと全く別人であった。

フォイルは外務省のエヴリンは東ベルリンへ
逃げ 店員のエヴリンはバートン・ホールに
幽閉されているのではと結論付けた。

バートンホールの責任者は 「ティン・アイ」と
呼ばれていた
ハリー・ゴールド中佐であった。
選挙区で行方不明になっている
エヴリン・ グリーンは
スパイのエヴリン・グリーンを
東ベルリンへ逃すために仕組まれた
隠蔽工作であった。
バートン・ホールは名ばかりで実際は
ソ連の情報を傍受し解読する施設であったが
中では尋問、暴力、拷問、虐殺が 行
われていた秘密の建物であった。
建物を案内してくれたゴールト中佐と
マクドナルド少佐に聞くが
「自分はロス医師やパレンコのことは知らない」と答えた。
フォイルはサムとグリーンの母親を尋ねる。
娘のエヴリン・グリーンは1年前から小さな店に
勤めていたと口を開いた。
写真を見せてもらうと外務省から消えた
エヴリンとは全く別人であった。
同姓同名のエヴリン・グリーンが
二人いることを確信したフォイルは
バートン・ホールに幽閉された女性を
助け出すためにMI5の採用試験に落選したした
ダニー・ウィリスを無報酬で軍事施設から
連れ戻すよう依頼する。
ダニーはこの危険なミッションを引き受け
無事に女性を助け出すことが出来た。

事件も終わり
イアンは結婚したらイギリス国籍を申請しようと
思って いたが、
今は夫を亡くし孤独に揺らぐ苦しい日々を
送っていた。
ドイツの家族は全員亡くなっており
多くのユダヤ人の家は
人手に渡り帰る家もない 状態であった。

フォイルはイギリスの在留許可証を取るよう
彼女に勧めた。
しかし彼女には出生証明書などの公的書類が無く
打つ手がないと悲しみに暮れた。

その後、上官のサー・マイヤーソンより
「今後君が共に働いてくれるなら
より大きな仕事ができるかも知れない」と
働きぶりが認められる。
フォイルも現在の仕事には満足しており
協力していく考えを示した。

ついては亡くなったロス医師の婚約者の
英国在留の許可を認めてほしいと申し出た。
フォイルは何人であろうと法に正しい者には
身を挺して手を差し延べ
時には上官とも取引し和解を迫った。

後日ロス夫人のもとに「在留許可証」が届いた。
この時、彼女の顔が少し明るくなったようだ。
 
 
 
 
 
 
 
<闘うフォイル>
保安局入局当初のフォイルは 正義と信頼の
フェイスティングススタイルで 臨んだが
田舎刑事あがりと見られ
信頼関係や捜査方法に随分隔たりがあり
日々翻弄された。
ピアースもバレンタインも結果的には
敵ではなかったが保安部内に於いては
捜査の解明には部下や周囲を欺き罠や
偽情報を流すのが 常であった。
敵は内にありで裏切り者もいたようだ。
また警察上がりのフォイルに対しては
周囲の警戒心が強く
捜査情報を極力遠ざける作為も見られた。
このとき活躍したのはやはりサムであった。
サムの聞き耳、目利きと滑舌で情報を集め
蔭ながらフォイルに
送っては敵を切り返す のに役立った。
時にフォイル自身も手法を変え
相手の出方次第では
正面突破の正攻法で 攻めるなど意外と功を奏した。
仲間には古参で知識と情報量の豊富な
バレンタインがいたが
ポーカーフェイスで掴みがたく
行動には謎の部分も見え隠れした。

だが 彼はヤル時には別人のような振る舞いも見せ
火中の栗を拾うこともあった。
当初フォイルとは沈黙の距離間があったが
フォイルが次第に頭角を表わすにつれ
協力体制もでき互いに理解を深めた。 

 
 
 
 
b3-反逆者の沈黙 
 
 
 フォイルの後任にクラークソンが着任し、
念願のアメリカ行きが決まった。
準備に忙しい日々を送っていた矢先
ある記事が 目に留まった。
それはジェームズ・デベローという若い男が
反逆罪で裁判にかけられるという
内容であった。

フォイルはデベローという名前から
一瞬ある若い女性の面影が脳裏を掠めた。
それはフォイルにとって
戦場の初恋にも似たようなものであった。

ジェームズ・デベローはドイツ軍の捕虜に
なったあとナチ寄りの「イギリス自由軍団」に
入隊していた。
ドイツ軍として前線に送られソ連との
戦いで戦死したと思われていたが
その後ソ連軍から送還されるに至った。

ドイツ軍に加担したジェームス・デベローは
反逆罪で裁判に掛けられる身となった。
デベロー家は旧家で由緒ある家柄であり
父親のチャールズは議員をしており
ジェームズが8歳の時に実母のキャロラインは
事故で 亡くなった。
フォイルは何はともあれ
ジェームスに会って
何とか彼を助けてやりたいと思った。

独房にいるジェームズを尋ねるが
彼は頑なに口を閉じ何も話そうと
しなかった。
このままだと間違いなく
絞首刑になるのではと思われた。
フォイルは本人から話が聞けないので、
今度は仕方なく彼の父親の
チャールズ・デベロー に会うため
デベロー邸を訪ねる。
チャールズは何故か息子の裁判よりも
家の格式や体面を重んじ、
家名を汚した息子など
どうでもいいような 口ぶりであった。
ただ後妻のジェーンからは
ジェームスが 8歳の時に実母キャロラインが
事故で 亡くなったことを語ってくれた。

一方ミルナーはアグネスという若い女性が
殺害された事件を追っていた。
アグネスの友達であったシルヴィーに聞くと
アグネスの恋人はドイツの捕虜で
諜報活動をしていたようだと教えてくれた。

アグネスは以前デベロー家の秘書を
していた。
アグネスの下宿屋のオーナーのラムジーも
デベロー家でメイドをしていおり
彼女にはジャックという
ボーイフレンドがいたようだと話した。
ラムジーによるとジャックは一度も
アグネスが住んでいた下宿へ
来たことはなかったそうだ。

フォイルもまたラムジー家を訪ねてみた。
彼女からキャロラインが亡くなる前に
ジェームスのユダヤ人ピアノ教師
ロスシュタインが窃盗容疑で警察沙汰となり
それ以来ジェームスはピアノは
止めてしまったらしい。
しかもロスシュタインはその後刑務所に
送られたようで何か関係があるのではと
フォイルは思った。
フォイルはアグネスがポケットに残していた
手紙をラムジーから預かった。
それはジャックからアグネス宛に
送られた ものであった。


まもなくジェームスの裁判が始まった。
弁明も弁解もしないジェームスは
国を裏切った罪で処刑場に送られようと
していた。
フォイルは弁護士に会いに行くが
「もうあなたにできることは何もない」と
断られる。
フォイルは詰め寄り
「アグネスの死、ジャックの手紙、
ピアノ教師の窃盗の謎などいろいろある」と
返答する。

弁護士はジャックという名前に気付き
ジャック・スタンフォードという男が
事務所へ 訪ねてきたとフォイルに話す。

弁護士と別れたフォイルは見知らぬ男から
情報収集機関の事務所へ誘われ ついて行くと
ジャックはイギリスのために
アグネスを経由して情報機関に情報を
送っていたと知らされる。
フォイルはそこで ジャック・スタンフォードに会います。
彼はアグネスに手紙を送ったジャックとは
自分だと言い張ります。
フォイルはこのジャックの発言に疑問を
持ちます。
フォイルは再びラムジーに会いに行き
ジャックという名前に
何か記憶がないか 尋ねます。
ラムジーはジェームスが幼い頃
キャロラインはジェームズが好きだった
冒険物語の主人公のジャックという名を
取ってあだ名としてジェームスを
「ジャック」と呼んでいたと答えた。

ジャックとはジャック・スタンフォード
ではなくジェームスであった。
アグネスとジェームズは幼い時から
仲良しであった。
ジェームズは自由軍団で得た情報を
アグネスに流していたのである。

ジェームズは何の弁明も弁解もせず
唯々その日が来るのを独房で待ち続けた。
例え戦争で精神的に極限まで
追い詰められたとしてもフォイルには
何か納得の行かないものがあった。

フォイルはここで彼がナチスに
協力したのではないと確信した。
ジェームスがイギリス自由軍団に入ったのは
兵士の士気を下げ、
ドイツの情報をイギリスに送るためであった。
ジャック・スタンフォードも同じ組織にいて
ジェームズの秘密に気付いていた。

ドレスデンで爆撃があったあとジェームズは
行方不明となり
ジャックスタンフォ-ドはそのことを知り
ジェームスになり替わって
イギリスへ戻って来た。
そこで自分が本物のジャックでないことを知っている
アグネスが邪魔になり殺してしまった。

すべてを解明したフォイルはジェームズに会いに行き
本当のことを話してくれるよう彼の心を開かせます。
全てが解明されたことでジェームスは釈放された。

フォイルはジェームズに昔キャロラインと
出会っていたことを話します。
キャロラインはチャールズと結婚していたが
結婚生活は悲惨なもので
フォイルとキャロラインの淡い恋が芽生えたが
キャロラインは既にチャールズの子を宿しており
子供のためにチャールズの元へ帰って行った。

ジェームスが警察官になりたがっていたのは
幼い時に母親から聞いていた
一人の警察官の活躍ぶりを忘れることなく
記憶の一部として
とどめていたのかも知れない。

父チャールズは日頃母親に虐待を繰り返し
ピアノ教師であったロスシュタインと
恋仲になった妻を許すことができなかった。
妻はそのため夫に離婚を申し入れたが、
デベロー家では世間体もあり離婚など
許されるはずもなく
夫は妻を殺害してしまった。
幼いジェームズはそれを一部始終見ていて
いつか父親を罰したいと思っていた。
フォイルが第1次大戦で負傷したときに
手厚く手当をしてくれたのが
ジェームスの母で あった。
 

 
<想えば>
前半は沈黙の罪人として一生を終える
覚悟であったデベロー。

ある日面識がないフォイルと言う刑事が
突然やって来て優しく問いかけたが
ジェームズは他人に対しては貝のごとく
固く口を閉ざしたままであった。
それでもフォイルは辛抱強く通い続ける。
次第に訪ねてくる内にジェームスは
フォイルの訪問の目的が
おぼろげながら理解できるようになり
少しづつ心が開けてきた。

ジェームスはフォイルに人間らしさを感じ
生きるという人生観の一片でも
掴みかけて きたのかも知れない。

同時に自分の過去を吐露してみたい
心境にもなり
話すことが出来るようになった。

ジェームズは母を亡くし
暗く打ち沈んだ環境で育ってきたが、
唯一幼少期には母親のキャロラインから
背に一杯の愛情を受け
楽しい時間を過ごすことが出来た。

軍隊にあってもベットの中で
母親に追いかけられ
家の中を駆け回る
幼少期を夢見ていたのかも知れない。

自分の人生を早く終わらせ
一日も早く母親の元へ行きたい気持ちで
心は満たされたのかも知れない。
 
 
 
 
   【付 記】
 
〔1〕『淡い恋ごころ』

フォイルは他人の私生活については
みずから聞くようなことはしなかったが ,
また聞かれることも心良く思わなかった。

しかし初対面でも気持ちが通う女性には
意外と心を開いた。

ある日、町の外れの農場で事件が起き
フォイルは現場近くで
ひとりの女性と偶然出会った。
女性はある仕事で現場付近の森の立木の
選定をしていた。

彼女は森を歩いては坑道の支柱や
道路封鎖に使える木材を
探し見つけるのが 仕事であった。

二人は心が通じ合ったのか打ち解けた。
彼女は語った。
『ある男性と出会って結婚したけど
いい結婚ではなかった。
息子には恵まれいい子に育ったが
ダンケルクで亡くしてしまった。』

話している内に彼女は涙が頬を伝わった。
フォイルも胸に来るものが
合ったのだろうか。
静かに聞いていたフォイルは
彼女を優しくつつんだ。
彼女は更にフォイルの腕の中で泣きじゃくった。
遠くでサムの呼ぶ声がした。

次の日フォイルが農場の庭先で休んでいると
飲み物を持って
バーバラがやって来た。

「中へ入ろうか」とバーバラが誘うと
「もう少し」とフォイル。
彼女もまた一人の女性に戻ったのかも
知れない。


数日後フォイルが村を離れる時に
一人の村人から置き手紙を手渡しでもらった。
フォイルは帰りの車で静かに手紙を開いた。

『機密任務で移動することになりました。
よそへ行きます。
残念だけど場所は言えません。
あなたのお陰で男性観が変わりました。』
-バーバラより-

フォイルは寂しくもあったが
心は満たされたようだ。

亡き妻は物静かで風景画を描くのが
好きであったように
聡明で思慮深い
バーバラを重ねたのかも知れない。

 
 
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